梅さんとフルトヴェングラー
友人の梅さんが、まだそれほど普及していなかったCDラジカセを購入した時のことです。彼は早速レコード店へ行き、大好きな『おにゃんこクラブ』のCDを手にしたのですが、レジへ向かう途中でふとこう考えたそうです。
「これだけ持っていくのは恥ずかしい…」
そこで梅さんが向かったのはクラシックのコーナーでした。なにが良いのか全然わからないまま、棚に並んでいるCDを見ていたところ、目に留まった一枚。
『フルトヴェングラー歴史的復帰演奏会』
いかにもスゴそうなタイトルに魅かれて、梅さんは『おにゃんこ』と一緒にこれを買ったのでした。実はこれこそ、私にとってすばらしく幸運な梅さんのナイスチョイスだったのです。
その頃、私は寝つきが悪くて困っていました。そこで梅さんのこのCDをカセットテープにダビングして、寝ながら「聞く」ことを思いついたんです。曲はベートーヴェンの交響曲第5番。1947年録音という年代物です。安物のラジカセで聞いたものですから、さらにひどい音になり、それはもう退屈で、おかげで良く眠ることができました。「これはいい」と、毎晩聞いて寝るようにしました。
ところが不思議なもので、そうして何度も聞いているうちに、次第に慣れてきたのか、ちゃんと「聴く」ようになっていたんですね。それから私になにが起こったのかといいますと、いつしか私は、ふとんの中で大暴れをしながらこれを聴くようになっていたんです。それほどすさまじい興奮と感動を与えてくれる演奏でした。「音楽に開眼した」と、自分ではっきり自覚したほどです。
ちょうどドストエフスキーを読み耽っていた頃で、ドストエフスキーの世界に匹敵するほどの音楽が、それも音楽でしか成し得ないものすごい世界がこの世にはあるのだということを、はっきりと思い知らされました。とりわけフルトヴェングラーの演奏は文学とどこかで通底している印象を与えるので、私が音楽を理解する上でまさにうってつけだったのかもしれません。そしてこれがさらにベートーヴェン交響曲第5番の演奏史上、傑出した希有な演奏であることも考え合わせると、私はとんでもなく幸運だったと思います。
そのCDは梅さんに譲ってもらい、今は私の思い出の宝物になっています。
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フルトヴェングラー歴史的復帰演奏会 CD キング(FONIT CETRA) K33Y 193 1947年5月25日の演奏。我ながらよくこれで開眼できたものだと思うくらい音が悪いです。廃盤ですし、無理に入手するほどのものではないです。 |
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独フルトヴェングラー協会盤 CD TMK 00808 同じく5月25日の演奏。新鮮で鮮明ですが、軽く明るい感じで、重厚さが減じています。高額で流通していますが、これも無理に買うこともないと思います。私はオークションで格安入手。 |
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FONIT CETRA盤 CD CDE 1014 同じく5月25日の演奏。このCD、面白いことに同じ品番で3種類あるようです。私のは第一楽章だけ27日の演奏で、この盤はヌケが良く重厚さもあり感興も得やすいので、25日にこだわらなければこれがベストかも。 |
以下は、1947年5月27日(上記から3日後)の演奏。こちらの方が入手しやすく、音もずっと良いです。
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フルトヴェングラーの遺産(分売) ベートーヴェン : 交響曲第5番 CD DGG UCCG-3696 入手可能なCDの中ではこのUCCG-3696がオススメ! |
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ベートーヴェン : 交響曲第5番ハ短調<運命> CD DGG POCG-3788 音質改善加工をしすぎたのか、すこ〜し力感が弱くなっています。UCCG-3696が入手できなくなったときの次善盤としてどうぞ。 |
以下は、同じく27日の演奏で、私が所有している初期盤のレコードです。
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DGG盤 LP LPM 18724 オリジナルはジャケット裏に「10/61」と記載されていますが、私のは「4/62」のセカンド。でも新品のような極上品。 |
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ETERNA盤 LP 8 20 280 ジャケット裏には「01/63」とあるので、LPMより後発ですね。音はWALPのような重厚さがあります。 |

