Illustrartorで全角中黒タブリーダーが筋悪になった件

Illustratorでタブのリーダーを全角中黒「・」にする手法は、2024 (28.7) 以降でかなり筋が悪くなってしまいました。今後は厳禁にした方が良いでしょう。

全角中黒タブリーダー

おさらいをしておきます。タブの設定で「リーダー」に記号文字を入力すると、そのタブにリーダーが表示されるようになります。

ここに全角中黒を入力する手法は一般的でした。しかし、2024 (28.7) で仕様変更があり、全く使いものにならなくなってしまいました。経緯を見ていきましょう。

CS ~ 2024 (28.6)

CSから2024 (28.6) までの20年以上、メトリクスと和文等幅で全角中黒リーダーは半角幅になり、オプティカルでタブに揃わなくなるバグはあったものの、それ以外はとくにトラブルなく使われていました。

2024 (28.7) ~2025 (29.0)

2024(28.7) で、全角中黒リーダーが全角幅になる仕様変更がありました。同時に、全角中黒リーダーを使うとメトリクスと和文等幅でタブ揃えに異常が発生するバグが発生しました。このバグは2025 (29.0) まで続きました。

なお、文字パネルの「アキを挿入」を「アキなし」にすることで、仕様変更とバグの両方を回避できる…ように思われました。

2025 (29.1) ~

2025 (29.1) で、タブ揃えに異常が発生するバグが修正されました。同時に、「アキなし」にするとタブに揃わなくなるバグが新たに発生してしまいました。このバグは現時点(29.2)でも修正されていません。

なお、2025 (29.1) はこれとは別の、ポイント文字に約物があると「タブ揃え」「中央揃え」「右揃え」でズレてしまう致命的なバグが同時発生し、混迷を極めました(このバグは2025 (29.2) で修正されました)。

2024 (28) は最終バージョンでもバグ修正されていない

2024 (28) はマイナーアップデート期間で致命的なバグが数多く発生しました。これらは最終バージョンでほとんどが修正されました。しかし、全角中黒リーダーでタブ揃えに異常が発生するバグは、発見報告が遅れたこともあり、2024 (28) の最終バージョンでも修正されませんでした。それでも、他のバグが修正されていることを考慮すると、2024 (28) は「28.7.4」(現時点の最終バージョン)を選択するのがベストでしょう。

対処方法

2024 (28.6) までに作られたaiファイルを2024 (28.7) 以降で開くと、全角中黒リーダーが変化してしまいます。この変化は2025 (29) で導入された「文字組み更新」機能でも検知されず、警告は一切表示されません。

変化した全角中黒リーダーをなるべく前の状態に戻すには、タブの設定で全角中黒「・」を半角中黒「・」に変えるしかありません。

2024 (28.7) から始まった全角中黒リーダーの変遷を見ると、あまりの混迷に辟易としてしまいます。全角中黒リーダーだけでなく、Adobeの現在のアップデート方針は、不可避的にこのような混迷にユーザーを巻き込むものです。

Adobeのマイナーアップデート期間は1年間の混迷期間

Adobeは現在、毎年10月にUSで開催されるAdobe MAXで必ずメジャーアップデートをします。その後の1年間は、マイナーアップデート期間です。マイナーアップデートでは、バグを修正したり、新機能を追加したり、従来機能の仕様変更をしたりします。そしてそれに伴う新たなバグが発生したりもします。これを1年の間に何度も何度も繰り返します。

マイナーアップデート期間は、1年間の混迷期間といえるでしょう。これに巻き込まれないために、マイナーアップデート期間の1年が過ぎるまでは使用を避けるのが得策です。

モリサワのMin2に要注意

モリサワには「Min」「Min2」という独自の文字セットがあります。Minの文字を増加してバージョンアップしたのがMin2で、ミニセット系では現在Min2が採用されています。

先に結論を述べておくと、Min2は漢字が少なすぎて、書籍の本文や見出しなどで使えるものではありません。

「石井ゴシック StdN」は、ちゃんと表示されます。

しかし、「石井中丸ゴシック Min2」は、不足した漢字が「〓」に表示されてしまいます。書籍で使えるようなものではないことがよく分かります。

[PDF]Min2で〓になってしまう漢字の例

ミニセット系が書籍等での使用に耐えられない(漢字が不足している)のは、モリサワも認識しているし、想定内なのでしょう。しかし、ここまで不足している状態は、ユーザーにしてみると想定外といえるでしょう。

ミニセット系は、そもそもデザイン書体に採用されるものなので、書籍に使われるおそれはまずありませんでした。ところが今年(2024年)にリリースされた写研書体で、デザイン書体ではないものにMin2が採用されてしまいました。

とくに「石井中丸ゴシック Min2」は書籍等で使いたくなります。もしデザインフォーマットで指定されてきたら、全力で拒否しなければいけません。その説得材料として上記のPDFをお役立てください。

InDesignの正規表現のUnicodeバージョン

InDesignは2019(v14)からメジャーバージョンアップ時にBoost.Regexも更新するようにしたようで、正規表現のUnicodeバージョンも更新されるようになりました。

CC 2018(v13)まで Unicode 5.1
CC 2019(v14) Unicode 9.0
2020(v15) Unicode 12.0
2021(v16) Unicode 13.0
2022(v17) Unicode 13.0
2023(v18) Unicode 14.0
2024(v19) Unicode 15.0, 15.1

正規表現のUnicodeバージョンの調べ方

Unicodeのバージョンにとくに影響するのは、\dや\sといった略記法です。InDesignの「\d」はUnicodeカテゴリーの「Nd」に相当するので、各UnicodeバージョンのNd文字をinddに並べて、\dでマッチするかどうかを調べれば良いわけです。

下図は2020(v15)で開いたinddです。\dにマッチするかしないかを視覚的に概観できるようにしています。これを見ると、Unicode 12まで全てマッチしていますが、Unicode 13以降に追加されたNd文字にはマッチしていません。一目瞭然で簡単に分かりますね。

ダウンロード Verification-Nd.zip
正規表現スタイルで自動的に\dのマッチが反映されるようにしています。idmlを各InDesignバージョンで開くだけで結果が表示されるので試してみましょう。

IllustratorのCreatorToolの更新について

AdobeのXMP(Extensible Metadata Platform)は、デジタルファイルにメタデータを埋め込むための技術です。そのメタデータには、ファイルの作成に使用されたソフトウェアの名前やバージョンを記録する「CreatorTool」というフィールドがあります。

Illustratorファイルにも当然XMPが埋め込まれており、CreatorToolも記録されています。Illustratorのメニュー「ファイル > ファイル情報…」で「Rowデータ」を選択すると、実際に埋め込まれたXMPとCreatorToolを確認できます。

CreatorToolフィールドの情報は「基本 > アプリケーション」にそのまま表示されます。

Bridgeの「メタデータ > ファイルプロパティ > アプリケーション」にもそのまま表示されます。

このCreatorToolは、Illustratorファイルの作成アプリバージョンを確認するのにとても便利そうです。しかし、残念ながら、CreatorToolの情報は常に正しいわけではなく、誤っている可能性が常につきまとっているのが現状です。

IllustratorのCreatorToolは誤っていることがある

例えば、2020(24.3)で新規作成されたIllustratorファイルがあるとしましょう。このファイルのCreatorToolは「Illustrator 24.3」です。これは正しい。新規ドキュメントのCreatorToolは常に正しいです。

次に、このファイルを2021(25.4)で開き、編集して、cmd+Sで保存したとしましょう。このファイルのCreatorToolは「Illustrator 24.3」で変わりません。本当なら情報が更新されて「Illustrator 25.4」にならなければいけません。しかし、更新されないのです。

このファイルのCreatorToolを更新するにはどうすればいいのか。方法はあります。shift+cmd+Sで別名保存をすれば、ちゃんと更新されます。

2022(26)以降で更新される条件が変わった

CreatorToolを正確な情報に更新するには別名保存をするしかありませんでした。ところが、2022(26)でこっそりと更新条件が変更されていたことが分かりました。

2020(24.3)のファイルを2022(26.5)で開き、編集して、cmd+Sで保存したとしましょう。

この時に、環境設定で「バックグラウンドで保存」がONになっていると、CreatorToolは「Illustrator 26.5」に更新されるようになりました。しかし残念なことに、バックグラウンド保存がOFFになっているとCreatorToolは更新されません。

本当なら、バックグラウンド保存がONでもOFFでも更新されなければいけません。そうではないのは、あきらかに不具合でしょう。なお、この重要な仕様変更はどこにも記載がないサイレントアップデートです(あるある)。

それでもバックグラウンド保存はOFFにするべき

「バックグラウンドで保存」は、デフォルトでONです。しかしこれがONになっていると、バックグラウンド機能が搭載された2020(24)以降の経験上の知見として、PDF互換のPDFデータがネイティブデータと異なる見た目になってしまう事故が発生しやすくなります。非常にやっかいなので「バックグラウンドで保存」は(「バックグラウンドで書き出し」も含めて)OFFにするのを強く勧めます。CreatorToolが更新されないけれども、それより事故の抑制の方がはるかに重要なので、OFFにするのを強く勧めます。

追記
2025(29.1)でついに改善された!

2025(29.1)で、バックグラウンド保存がOFFになっていてもCreatorToolが更新されるようになりました。この改善で、常に正しい作成バージョンがCreatorToolに記録されるようになり、Bridgeの「アプリケーション」にもちゃんと正しい情報が表示されるようになったわけです。
長く待ち望んだ本来あるべき状態になりました。よかったよかった。