Glyphsは2.6.2のリリース時点でvertOriginの設定に重要な変更をしています。その変更は編集ビューで縦組にした時の情報パネルに反映されました。
情報パネルの見た目が大きく変わっています。ここで最も重要な変更は「o default」と表示されている項目が新たに追加されたことです。この箇所でvertOriginの数値を直接設定できるようになりました。
vertOriginについて
そもそもvertOriginとは何でしょうか。全角アルファベットと全角記号のグリフを例にして説明します。
全角アルファベット小文字のg(g.full)は、デフォルトのままだと縦組でとても残念なことになります。
このg.fullのグリフは、ディセンダーがボディからはみ出していて、縦組にすると下のグリフと重なってしまいます。
ディセンダーがないe.fullでも、上のすき間が大きく空いてしまいます。
全角記号「㎜」も同様に上のすき間が大きく空いてしまいます。
これを解決するにあたって、考え方として一番シンプルなのは、g.full.vertのように縦組用グリフを追加することでしょう。そこで字形がボディの天地中央になるように字形パスをずらせば解決します。
しかし、実は縦組用グリフを追加しなくても解決できる方法があります。それは縦組でボディの位置の方をずらす方法です。
どうやってずらすのかというと、縦組でボディ上端のy座標が変わるようにします。この縦組時のボディ上端のy座標をフォントエンジニアリング用語でvertOriginY(縦組時のボディ原点のy座標)と呼びます。
上図ではデフォルトの上端位置は880です。そしてvertOriginYの数値を設定すると(上図では648に設定)、縦組時に自動的にボディ位置がずれるようになります。
なお、上図のg.fullは源ノ明朝です。源ノ明朝は縦組時のディセンダー衝突をvertOriginYで回避しています。言いかえると、vertOriginYで回避できるのでディセンダーをボディからはみ出させているといえるでしょう。そしてほとんどのプロ用フォントもこの方法を採用しています。
Glyphsはこの設定を2.6.2以降の情報パネルでできるようになったのです。素晴らしい改善ですね!
GlyphsのvertOriginの設定に注意
ただしちょっと困ったことに、Glyphsの情報パネルに入力する数値はvertOriginYと同一ではありません。Glyphs独自のvertOrigin(Yが付かない)の数値になります。
上図では880を648に変更しています。これをGlyphsの情報パネルで設定するには、880-648の「232」と入力します。デフォルトをゼロとし、ずらす量を入力するんですね。y座標ではないのでYが付かないvertOriginなのでしょう。(でもこの場合、減らすのだから-232だと思うのですけど、そうなっているので仕方がありません)
悲しいお知らせ
素晴らしく改善されたvertOrigin設定のUI実装ですが、悲しいことに重大な問題がまだ残っています。
Glyphs 2.5でプロポーショナルメトリクスの設定がアンカー設置で可能になったのは記憶に新しいところです。ご存じのように、横組用のpaltはLSB/RSBアンカーを、縦組用のvpalはTSB/BSBアンカーを設置します。重大な問題というのは、vertOriginとvpal(TSB/BSBアンカー)を重ね掛けすると、編集ビューの表示が乱れてしまうのです。
この動画は、ちょっと分かりにくいかもしれませんけど、自作のスクリプトでvertOriginとvpalを同時に設定した様子です。このように乱れてしまっては、vpal(TSB/BSBアンカー)の目視調整は
(よく考えたら不可能ではないですね。vertOriginが default ならvpalの目視調整は可能です。vpalの設定が完了してからvertOriginを設定すれば大丈夫。そこそこめんどくさい)
これは表示だけの問題であって、出力したフォントではちゃんと意図通りに表示されます。
この問題もフィードバック済みなのですけど、なかなかフィックスされないのが現状です。あともう一息なのに、残念…。