Illustratorのバックグラウンド機能で何が起きたのかを記録として残しておきます。
バックグラウンド機能の導入
Illustratorにバックグラウンド機能が導入されたのは、2020 (24) です。デフォルトで有効になっており、2020にアップデートした人たちはここを有効にしたまま使うことになりました。
この頃にIllustratorフォーラムで、ネイティブデータと見た目が一致しているはずの互換PDFがネイティブデータと異なる状態になってしまう、という不具合がかなり多く投稿されるようになりました。不具合が発生したときに重要なのは、それを確実に再現する手順を見つけることです。そこから対処方法の有無が分かりますし、開発側はデバッグでその手順から不具合の原因を特定できるからです。
しかし、この不具合は再現手順を誰も見つけられませんでした。その替わりに、バックグラウンド機能を無効にすると不具合を防止できることが経験的な知見として得られ、対処方法だけが判明しました。その方法はユーザーに周知されることはなく、不具合も直らない(直せない)まま放置されました。
バックグラウンド保存に新オプションの導入
2025 (29.7) で、「バックグラウンドで保存」のオプションとして「パフォーマンスのために保存を最適化」が追加されました。
驚愕すべきは、Adobeはリリースノートにこのオプションを全く記載しませんでした。現在でも公式ドキュメントのどこにも記載がありません。そのオプションが何なのかを説明しているのは、当時のWebニュースのみです。
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Illustratorは保存時間が大幅短縮
保存の最適化により、保存時間が大幅に短縮される。 環境設定のファイル管理に「パフォーマンスのために保存を最適化」オプションを追加した。チェックボタンを有効にすると、差分のみを保存することで処理が高速化する。
この記事はほとんど知られなかったので、ユーザーはこうした機能追加を誰も把握していませんでした。
2025 (29.8.1) で、このオプションがさらに致命的なバグを発生させます。ファイル保存時にオブジェクトがランダムに移動してしまい、その状態で保存されてしまう不具合です(他にもいくつかあった模様)。それまで互換PDFのみで発生していたのがネイティブデータにも発生するようになったわけです。しかもかなり頻繁に発生するのに、ここでも確実な再現が難しく、開発チームでの修正が難航したようです。2026 (30.0) のバージョンアップでも直らず、世界中のユーザーに被害を与え続けました。
なお、バックグラウンド機能を無効にする対処方法はここでも有効でしたが、知らないユーザーは依然として多い印象を受けました。
結局、先に2025 (29.8.4) で修正され、その後に2026 (30.1) で修正され、ようやく不具合が収束したかに思われました。
2026 (30.0) では「パフォーマンスのために保存を最適化」オプションがなくなり、バックグラウンド保存に統合されました。この時点でAdobeはようやく公式に2026の新機能としてリリースノートに記載しました。
2026 (30.2.1) で、この新機能はまたバグを発生します。psd画像ファイルをリンク配置すると、互換PDFでその画像が消失する不具合です。
まとめ
「重い遅い」の対策として導入したバックグラウンド機能でしたが、当初から互換PDFに生成不良を発生させるバグの温床でした。さらに2025 (29) でバックグラウンド機能の新方式を導入したことで、余計にバグが悪化して止まらない事態になっています。
このバグの重篤性は、不具合自体もそうですが、2025 (29.7) のオプション追加が「ネイティブフォーマットのファイル保存に加えられた新機能」であるにもかかわらず、ユーザーへの告知をAdobeが全くしなかったところに潜在していると感じています。ここまでのオプション追加の非言及は、方針としてかなり異常です。バックグラウンド機能はここでIllustratorの闇と化したといえるでしょう。
私たちユーザーができることは、闇からの自衛として、未来永劫末代までバックグラウンド機能を無効にすることだけです。
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