源ノ明朝/角ゴシック-2の続きです。
ここで源ノ明朝/角ゴシックからすこし離れて、先にどうしても知ってほしいフォントの基本的なことをお話しします。回り道のようですが、急がば回れです。
デジタルの文字
今の私たちは、日常的にパソコンやスマホで文字を読んでいますよね。読むだけでなく、自分で文字を入力したりもします。そのときに見ている文字は、すべてデジタルの文字です。
文字を読むとき、私たちに見えているのは文字の形です。しかしデジタルの文字は、見えるデータだけではなく、見えないデータも一緒にくっついているのです。
私たちに見えるのは「フォントのグリフ」です。グリフは人間が見るためのデータです。
そこに、人間には見えない「文字コード」がくっついています。文字コードはコンピューターのためのデータです。人間のためではないので、人間が感じるようにはできていません。そこに文字コードがあることは、人間には絶対に分かりません。
人間が見るための文字に、どうしてこんな見えないデータがくっついているのでしょうか。
実は、フォントのグリフには、それが「何の文字なのか」の情報がありません。私たちは見るだけでそれが「日本語の平仮名の “あ”」だと分かります。しかし、コンピューターには、そのグリフが何の文字なのか分からないのです。
文字コードは、何の文字なのかをコンピューターに教えるデータです。コンピューターは文字コードでそのグリフが「日本語の平仮名の “あ”」だと判断するのです。
「フォントのグリフ」「文字コード」の異なった2つのデータがペアになって1文字になっている。それがデジタルの文字。1文字ずつがすべて二重構造になっているんですね。
2つのデータのペアはフォントが決める
「フォントのグリフ」「文字コード」のペアは、フォントが決めています。フォントの中には、どの文字コードをどのグリフとペアにするかが書かれた一覧表があり、コンピューターはその一覧表を使ってペアを作ります。
この一覧表には決まりがあります。文字コードがペアになれるグリフデータは、たった1つだけなのです。
ここがとても重要なところです。文字コードさんは誠実で純情なので二股なんてできない! と覚えてください。
ちなみに、グリフは文字コードさんと二股できてしまいます。ひどい奴。ここでは必要ないので説明しませんが、 +DESIGNING Vol.42に詳しく書きましたので、よかったら読んでくださいな。
次回は、この基本的なことをもとにして、源ノ明朝/角ゴシックで最重要の「Unicodeの漢字統合」を説明します。うまく説明できそうな気がしてきた!
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噛み砕いた説明とても参考になります。
質問なのですが「グリフ」という用語はどういった意味なのかご教示しただけないでしょうか。
個人的に調べてはみたのですが字形字体等どれも具体的にどんな概念を何を指しているのかはっきりしない説明ばかりです。
良いご質問です。
グリフは「文字コードのグリフ」と「フォントのグリフ」の2つに分けて考えるといいです。これを一緒くたにしてしまうと、何を指しているのか分からなくなってしまいます。
★文字コードのグリフ
平仮名「あ」の文字コードは、当然「あ」の字形を指しています。しかし、実際の字形は明朝体だったりゴシック体だったりして、ほとんど無限に違いがあります。文字コードでは、そうした字形の違いも丸ごと飲み込んだ抽象的なものをグリフと呼びます。
似たような用語に「字体」がありますが、これは文字の骨格と言われています。文字コードでは「葛󠄀/葛󠄁」のように、異なる字体まで同じ文字コードにしたりします。なので、グリフと字体は同義とは言い切れません。字体の違いも飲み込んでしまうことがあるのが文字コードのグリフです。日本語には適切な訳語がなく、グリフとしか呼べないものです。
★フォントのグリフ
デジタルフォントの具体的な文字のデータもグリフと呼ばれます。「葛󠄀/葛󠄁」のグリフは必ず別々にされます。
これを字形データと呼ぶのはちょっと無理があります。例えば、全角スペースの具体的なデータに字形データはありません。あるのはボディ(幅)のデータです。このような空白文字まで字形データと呼ぶのは無理があります。
そこで、フォントのグリフは「字形とボディの総合的なデータ」とするのが、実際に合っていると私は考えています。これも日本語に適切な訳語がなく、グリフとしか呼べないものです。この記事では、グリフをこの意味で限定して使っています。
★注意
上記の2つに分ける考え方は、もしかすると私独特のものかもしれません。でも、「グリフ」が何を指しているのかを明確にするには、こうした方がいいと確信しています。
文字関係の用語は、文脈や人によって意味が異なったりするので、ややこしいですねぇ…。